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8月, 2013の投稿を表示しています

文字16「シティ・ポップ」(マシュマロウズ)

シティ・ポップ げろなのかなんなのか分からないような、そんなものが道に敷き詰められて黒く擦れ焦げたアスファルトの上に、在るのです。それがある瞬間にうごめきだす時きみはそれをなによりもニンゲンだ、と思ってしまう、歩くひと、なんの損得も生み出さぬ会話にふけるひと、それらを差しおいてアスファルトから立ち現れるひとのカタチこそ人間だ、ときみはしみじみ思ってしまう、そういうある日のcity pop 朝5時、マンハッタン、イエローキャブ、変な臭いのする路地裏のビルからは夢を使い果たしてあの一滴と狂騒に換えた2人たち、救いようのない2人たちの複数・多数がゴキブリやネズミの類いと一緒に路に吐き出されてきます。金はゴミ箱の中のゴムの中身になるし昨晩(ゆうべ)の熱情はついに何ものも成すことがないでしょう、とあの娘は言う、知ってて笑ってるんだね、剥き出しの歯・歯・歯、矯正具の銀色の光は君をかみつぶし飲み込むでしょう、グロスを塗りたくった官能的な唇で味わうフラペチーノとグローバルビジネスの味はどう?痛いけどこれが君なりのcity pop ぬるぬるの石鹸の身体で飛び起きる、ベッドは濡れ君は荒い呼吸をする。朝日の白さは君を眩しくするだけだ、白い光は痛い、痛い、君は叫んでベッドに倒れ込む。痛さと苦しみ、何もない日常の中で唯一それだけが現実のcity pop 頭痛をこらえて苦しく呼吸する君の耳、黒い髪が巻き付いた君のおいしそうな耳が何かを捉える。何かが呻いているようです。何かが弾んでいるようです。君はおそるおそる枕から顔を外そうと呻く。白い光が君の視界を奪う。 気がつくと君は荒れた茶色い地面に足をつけ立っている。知っている場所、ロッキー・マウンテン。君の鼻腔を懐かしい匂いが打つ。ジェロニモ。そう呼ばれた気がした。ジェロニモ。太鼓の音が近づいてくる。心臓がドキドキする。眼がシバシバする。どんどんこちらにやって来る。それは正しかった。それは君だった。君は呼んでみる。叫んでみる。ジェロニモ。ジェロニモ。ジェロニモ。ジェロニモ! 14.08.2013 マシュマロウズ@定演ライブ 

文字15「ねむられ」(マシュマロウズ)

ねむられ 一度「ねむる」と決心した者が、実際に眠りに辿り至るまでに50の歳月を過ごした。男は50の年月を、ここ、の現実からそちら、へと移行する段階に、確実にいたのだが、その実そのどちらにもたどり着くことのないあいだの場所にいたのだった。しかし50年を経た今日、男は何かを得る一方、その代価として何かを失い、その失われの過程の中で眠りを経験していたに違いない。ここ、乾燥した地面のどこかしらから水分を得て生き延びる植物らの赤茶けた土地で、男は初めの眠りを経験していた。 男は夢を見ていたのだった。男はいまや男であることをやめているらしかった。夢の空気は至るところ甘く、男であった者はすでにそれを存分に吸い込み、そうすることで夢を深くまた濃く見ることにしたようだった。 男であった者は、白い服を身につけ、白い夢を泳いでいる。自分は少女であるらしかった。そのきれいに磨き上げられた小さい爪の手を口元にやると、金属製の矯正具の冷たい硬さに触れた。 甘い空気はどこから漂っているのか。男であった少女が、いまはじめてゆっくりと目を開けることを決めたのちに、長い睫毛は律動をはじめたのだった。 そこはトイレだ。甘い匂いは手に持ったマシュマロの袋から漂っているらしいが、微かに混じる化学薬品の匂いはどこから来ているのか、彼女は不思議に思うふりを、ひとしきり演じてみる。マシュマロから漂っている気もする。しかし目の前にある洗浄用の緑の液体から彼女の鼻に到達していた可能性もいまいち捨てきれないのだった。あるいは、わたしの鼻がなにか化学的な製法によるのかもしれない。そう思うと彼女は下で口を開けて待ち受ける便器に向かって体のどこか奥の方から静かな笑い声をくつくつと吐き出すのだった。 どこか遠いとこらから他の少女らの軽やかで残酷な、あの特有の笑い声が静かに反響して聞こえてくる。反復運動をする靴と床の摩擦の音。運動する彼女たちのユニフォームの中で伝う汗の匂いが、トイレのなかに微かに残っていた。 少女はそういったもろもろの漂うものをひとしきり小さい鼻腔で吸ってみたのち、ひとりそこでマシュマロを頬張ることにした。緑か、白か、うすいピンクか、黄色か、青らしいものか。選択肢は多くあった。腰と肩のちょうど中間あたりまで伸びた黒い髪を細い指でくるくるしながら、彼女は大きめな目を潤ませ口を歪めることにした。選

文字14

穴と棒、口と口、皮膚と皮膚が合わさりながら 毟りあう、のは、 なぜか他と他の合一を最終目的としている、というふうに思われる「愛」が究極的には成就しようのないものならば、その切なさを(あくまで比喩的、な)「食らうこと」に託すしかなかったわれわれだからだ