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プラトーノフ「汝の名が讃えられんことを」

ぼくらの祖父や曾祖父は、労働を罵っていた。彼らは信じていたのだ——アダムとイヴの愛欲の罪のために、神が労働によって彼らを罰しているのだ、と。

彼らのうちで、その狭い血管を血液が疲弊しきって流れていた。胃袋は脹れ、彼ら自身は粘土製の巨人であった。彼らは労働の歓喜は知らなかったが、祝祭をよく理解していた。祝祭——法に認められた怠惰が勝ち誇る日々を。

大地の動きはわるかった。大いなる焔である太陽のみが、何十億の星々がなす流れや滝の中を大地が駆けぬけるようにしていた。その生命なき土塊から、生命と人間とが生まれたのだ。この人間というものは、その母にふさわしい息子となり——石と化し、動きを止めた。そしてそのせいで長いこと、あらゆるものの奴隷の地位に甘んじていた。

[それは続いていた——]人のこころの中で何かが張り裂けるまでは。その目を見開き己の眼前に破滅と死——人間の恐怖と無力の永遠の道連れ——を目にするまでは。人びとのあいだにキリストが生まれるまでは。キリスト——つまり、大地の子のうちでもっとも強き者、自信と歓喜の力によって己れの下に死を押し潰す者が。そしてそれによって、永遠に人間に経帷子をかけて葬り去ってしまう、あの狂ったような時の流れを押しとどめたのである。

人間は駆けだし、そして労働をはじめた。はじめて、人間は自らが世界の諸力に対して万能かつ唯一の君主であると感じていた。はじめて、人間のうちを恐ろしく破壊的で自由気ままな世界の力が流れていった。そして人はその威力を知り、それを征服する喜びを知り、そうした力はよく探求してみれば、恐ろしくないばかりか取るに足らないものだと知ったのである。

人間と労働は、お互いにお互いをものにした。そしてこの瞬間から、世界に破滅が宿命づけられ、人間はあらゆる現象、世界の震え・変化のすべてを己れのなかへ吸収しはじめたのだ——力を増すため、また己れの生を不死化するために。人間は無限と不死の王国、自由と勝利の王国を自らに運命づけたのである。

はじめの人間が自らの必要のために木をくり抜くのに使ったはじめの石は、自然の終焉であり、人間の端緒だったのである。

妻子の不意の死に対する怒りと復讐心のはじめの激発、これが不死の始まりである。

沼沢で倒れたオークの木と、沼の水位の上昇の関係性が無意識に捕えられたが、これが思考と学問の誕生にあたって決定的な動機の役割を果たした…

プラトーノフ「芸術について」

アンドレイ・プラトーノフ「芸術について」(日記より)
日々代わり映えのない人間の生活のなかで昼と夜とがめぐり、活動時間と安静時間がめぐるように、ひとの生において——その最上の意味、その頂きにおいて——、理解を索めて焔と燃えたつような理性のはたらきにも同様に、緊張する期間と休息の期間とがある。

休息、すなわち精神の安静とは、ひとがただ自分自身を、その完全性を、その理想的な調和状態のみを観照するような瞬間であるが、つまりそれが芸術なのである……。芸術は、理性の生命であって、その生命は自らの内に、その揺れうつろう深淵のなかに宿っている——理性が世界全体、宇宙(コスモス)全体の中に、ひたすらにそのもの自身と、そして自らの偉大な本質の反映だけを目にする時に。だから芸術とは、そのような限りない喜びであり、ひれ伏した複数の空たちのもとでの歓喜の歌である……。というのも、人間の精神が解放され自由になって、次第に増しゆく自らのうつくしさをその中に映しだす時、また人間の精神がもの言わぬ透明で鋭い光によって闇を照らし出す時には、自然の力や宇宙の荒れ狂う力はことごとく鎮まってしまうのであるから。そして観照するぼくらは、大いなる歓喜の中で、自らの内にあるものとまったく同じものが至るところにあるのを目にする。ぼくらは、カオスの上にあるように思われたあらゆるものと血の契りを交わすのだ。ぼくらは確信している——ぼくらを取り巻くのは、ぼくらの歓待や愛撫、心配りを愛し心待ちにしている兄弟たちだけだということを。そしてこうしたものすべてが、コスモスの中にあって己れを観照するところのぼくらの精神——つまり芸術——をぼくらに与えてくれるのだ。

勝利を希求する理性によって前へ前へと突き動かされる生命が、嵐に取りまかれた海洋であるとするならば、芸術は同じ生命、同じ海洋ではあるけれども、しかし静まりかえってすべての澱が海底に沈んだ日没前の海洋、太陽に刺し貫かれた海洋である。この海は、なにかを探し求めるすべての眼差しに対して、その魔法のような深い海底を露わにする——何十億もの生命ある存在、微動だにせぬ珊瑚群、理解を超えた神秘のお話をはらむ海底、そして躍動する若い生命がもつあらゆるうつくしい幽玄な貌を……。

 芸術は理性の驚くべき眠り=夢であり、その眠りはあたかももはやすべてを悟ってしまったかのように、すべての上に君臨する…