セルゲイ・ザヴィヤーロフの詩

破壊の書(1985-86)


秋に
雨を待つ  乾いた落葉
堅いアスファルト  夜の運河の波音
世界の崩壊は  おまえだけに聞こえる  捕えるな
  その退屈させるようなリズムを
  微笑み
と眉墨が腫れ上がった幾世紀のうえに浮かぶ
汚れた軍用衣
未成年者たちが煙草に火を点け  喧しく笑う
  彼らの手は労働者の手
  もう自分自身に耳を傾けるな
彼らとともにいなさい
世界のなか
  すべて言うことなしの世界のなかで

この秋は風がない  かろうじて感じるだろう
  眼に見えぬ肉が触れるのを
触れながらも引き留めることはかくも困難だ  嘆息ならぬ嘆息の
  一どきの喘ぎのうえに
おまえの想像が生んだ母国から  かろうじて気づくほどの徴
  己のものだと思い込んでしまったという、徴

己れの故国を見いだせ
己れの発話の  感覚に耳を傾けよ
鏡のなかの狼男を見つめよ
副詞を探り当てよ そのなかでは
  自分自身との対話におまえは加わるのだろう
石の強度を確かめよ  家へと
  伸びる路の石の

◆サッフォー風詩体

道すがら彼女に会ったか、メルクリウス
早朝に微笑んだだろうか、ウェヌスは
冬に北風の神ボレアスの家に吾らを
  置き去りにせず。
ひたすらに天井は高くなり、そして鮮やかに
輝いたのだ、突然に、物体の角を縁どるように
毛皮を脱ぎ捨て ニンフがみなし児のペナテスに
  笑いかける、その時に。
そして私を、薄汚いスキタイ人の奴隷にでもしてくれ
冬眠もせずぶらつく熊の生贄にでもなろうではないか
もしも私が忘れることがあったなら
  溢れくる涙の喜びを。

眠るとき、人は背を向け壁と向きあう(ヘラクレイトス、断章89から)

一、

  そうしてかくて今でも
下劣にもあなたを忘却している
日々にもいつもそうであるように
  あなたの下僕を赦し給う  支配者よ
荒廃しきった心を持つわたくしは
痛悔の気持ちに駆られることもなく
  罪のなか寝入る
そしてあなたとは言葉を交わさぬ  あなたの
憐みを垂れ、また罰する御手が
  我が両の眼に映りながらも

二、

  私ははじめようと思う
妻(さい)よ  見てほしい
この夜に 雪がいかに月並であるか
  ユリウス暦の降誕節前夜だ
舊約によるゴグとマゴグはどこかへ行ってしまい
出くわすことになる  状況の転換に
  だからもう寝たほうがいい
だっておまえは  もうぜんぶ聞いたのだから
だが私がまだ言ってもいないことを
  おまえが聞くことはどうせないのだ
けれどももう一度  叫び声を届けたい
おまえも解らないわけはあるまい  この、
この夜、分断の夜に
  雪は月並に過ぎるものだと?

三、

  そして終いに
世界と  あなたのロゴスによる
救済 ―強く  弱く―
彼ら一族の殲滅
  壁の染みと化すまでの

◆トビリシへの招待(S.マーギドへ)

そのことばの しずかなよろこび
金の髪した女の子  ひとを従えるしなやかさを
すらりと伸びゆく日焼けを知らぬ脚に すでに具えて
それは極限まで細くなりゆく  優美な指で下へ
上へ撫ぜる  情欲が
  すこしきついほど堅く編まれた巻き毛に
こころ鎮まるようなよろこび
言語ならぬ  それはどこ  この言語の祖先たち
  ことばの
ガスに汚染されたティフリスの盆地
薄汚れた川が流れ
黄色がかった  段地に 技師らしい白い陳腐さがあり
十字架群の定かならぬ崩壊が
  ムタツミンダ山の麓のところに
あのことばの肉感的なよろこびが
和声の決裂は  生存にはなく
音楽的調和のしずかな哀悼のなかにあるのだ
いつだってまるでほんのすこしカヘティ地方の
葡萄の蔓を啜ってしまったかのごとき調和の

Me nec femina nec puer
jam nec spes animi credula mutui
(Horatius. Carm. IV. I 29-30)

[もはや私を満足させぬ] 女も小童も
互いに信ぜらるなどという軽々しい期待も


わが柔弱なる小童  わがローマ人(びと)よ
慰みの葡萄を一のみにするまで  まだ時間はある
おれに教えてくれ  五月のこの重苦しさのわけを
そして鴉の一群が  あらゆる鳥類を妨げ
             歌  緑繁りはじめた
  墓所にて
見えるか?
新たなる墓より  這い出くる  この蛆
  こんなにも脂にまみれ  薄紫色をしている
顔を背けよう、わが少年  わがリグリア人(びと)
かくも絹のごときお前の縮れ毛
お、わが無欲をおれはよろこぶ
わが肉に有難みを感じるごとく
  お前に対して無関心であるのだから



*Завьялов, Сергей Александрович (1958-)

*サッフォー風詩体は、
 ̄ ︶ |  ̄ X |  ̄ ︶ ︶ |  ̄ ︶ |  ̄ X (×3回)
 ̄ ︶ ︶ |  ̄ X
という形をとる詩型(Xはアンケプス)。
原文はこの詩形に忠実である。
встрЕтил лИ еЁ на путИ меркУрий,
... ...
нЕ покидАет.

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