08 6月 2016

アレクサンドル・スキダンのテクスト

コンドラチェフ大通り(99年11月)


祖国の靄も
祖国も忘れた

前どんなふうだったか 覚えているか

お前は街を歩いていった
自由な市民

すべてが足りなかった

卵を求めてでかけていく
どうだ、心に覚えがあるか

ごろつき少年と薄く開いた目の
少女がたむろする腐った臭いの地下の酒場

素粒子の素早い動き
頭を仰け反らせて お前は飛んでゆく



フランス人を讃えたのだ
うわさが流れていった

血が泡立っていた
国際パスポートのよう

お前は頭を上げようとはしなかった
車窓をみつめながら

それは詩も同じこと
詩は二次的なものだ

草叢のなかの声のよう
声のよう

作りものの悲しみの
溶けたガラスのなかの



無用の死体
労働の斧

それからパスハ用のコップのような
なにか血をわけたもの

愛する女が長杖でこつこつ叩いて
鼻をひくひくさせる 老婆の臭いがするのだ

そんなふうに母国は言葉をつかい、悪臭をはなつ
話しながら 悪臭を放つ

まるで黒い新聞に載った
卑猥な「言葉」



抱擁の 清らかな塩
額の糸鋸

行かないでくれ
いくつもの お前の接吻

お前はもう 背に夜の歯のあるページの
釘抜きではない 放浪者でもない

焼かれている脳髄でもないし
御しやすい霧でもない

地の泥炭なのだ
かき分けて お前が横になっているあの地の

咽喉が咽喉を覚えておくようにしておけ
歯は 歯を 覚えておくように

あの噛みしめられた歯を


ロシアのダダイズムも
地獄も

愛されている
なにがしかの恐ろしいちからで

ポプロフスキーは床に横になっている
ネジになって 消えていってしまった空の踊り場が

少女のように 彼を誘惑する

家へ 家へ 空から
お前は帰ってくるだろう

あの子を迎えに走っていくだろう
そしてあの子に別れを告げるだろう

あたかもお前が突然韻律を好きになったかのようだ
悲劇の主人公のコートに包まれて


ロシアのダダイズムも
地獄も

悲劇の主人公のコートに包まれ
ポプロフスキーは床に横たわる
ネジになって。 消えていってしまった空の踊り場が
彼を誘惑する 別世界のように

愛された男が
なにがしかの恐ろしい力で

おれの すてきな 友よ
おれを 聞いているか?

大通りは飛翔した ガスを撃ちつけながら
お前はと言えば 下にむかって飛んでゆく 頭から


[註1:コンドラチェフ大通りは、現サンクト・ペテルブルグ市北東、カリーニン地区に実在する大通りの名称。団地や工場などが並ぶ。コンドラチェフは、革命後の内戦において名誉の戦死を遂げた兵士の名。]
[註2:文中「ポプロフスキー」について。ボリス・ポプロフスキー(Борис Юлианович Попловский, 1903-1935)はロシア語詩人。モスクワで生まれ、ランボーやフランスのシュルレアリスムに強く影響を受けた詩作を行った。1921年に父親とともにフランスに亡命。パリで死去。]

* * *

審判(INQUISITIO)



その人の後頭部から切り取られたのは、セグメント状のかけらだった。太陽も一緒になって、全世界がそこに目を向けている。これが彼をいらだたせ、仕事から気を逸らせ、さらには、まさに彼だけがこの見世物から除け者にされているということに、その人は怒りを感じているのだった。

まさにそのとき、その人は歴史の決定的瞬間に鉢合わせる。それはすべてに疑問符が附されたのだと感じられる瞬間であり、法、信仰、「国家」、来世と現世、つまりすべてがということだが、それらが何の労力も困難もなく非在へと崩落してゆく瞬間である。

メシアは、メシアがもう必要ではなくなってはじめてやってくるのであり、降臨ののちのある日にやってくるのである。単なる終わりの日に、ではなく、本当に本当の最後の日に。

その耳殻は、触れると生々しくて、ざらざらで、ひんやりしていて、みずみずしくて、葉っぱのようだ。

ただことばだけを与えよ、ただ祈りだけを与えよ、ただ嘆息だけを与えよ、そしてお前がまだ生きて待ってくれているという確信、ただそれだけを与えよ。いや、祈りはいらない、ただ嘆息だけでいい、いや嘆息でもなく、ただ存在だけを、いや存在も違う、ただ考えだけ、いや考えでもなく、ただ眠りのやすらぎだけを与えてほしい。(...)

*続きは以下のアドレスから。
https://note.mu/pokayanie/n/nbdf589a16ad9

* * *

※アレクサンドル・スキダン(Александр Вадимович Скидан、1965-)は1965年ソ連・レニングラード生の詩人。翻訳者としても活躍し、アメリカの現代詩や、ジジェク、ナンシー、ド・マンといったフランス現代思想の理論的な著作を多数ロシア語に翻訳している。「コンドラチェフ大通り」や「審判」の収録された2005年の詩集『赤の転移(Красное смещение)』で、翌年のアンドレイ・ベールイ賞(詩部門)を受賞。

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